観劇日記

宙組「神々の土地~ロマノフたちの黄昏~」感想|朝夏まなと退団3周年に際して

こんにちは、zukacotoです。

11月19日のこと。

前宙組トップスター朝夏まなとさんがインスタグラムにこんな投稿をしていらっしゃるのを拝見しました。

退団して今日で3周年だという内容でした。

え、もうそんなに経ったんだ!?

時の流れの早さに驚くと共に、そう言えば私、まあ様の退団公演をまだ一度も観ていなかったなと思って。

現在宙組で公演中の「アナスタシア」も同じ時代を描いた作品だと言います。

ちょうど時間もあったので、以前NHKで放送していたものを録画してそのまま観ずに放置してしまっていた宙組公演「神々の土地~ロマノフたちの黄昏~」 をこの機会に観てみることにしました。

上田久美子の脚本に唸る

実は、私、上田久美子先生のオリジナル作品を未だに観たことが無かったんです。唯一、ショー作品である「BADDY」は観劇させて頂きましたが、お芝居は映像含め一度も。

でも、どの作品も揃って評判がすこぶる高いので、神々の土地も当然期待を持って観始めました。

…結果的に言うと、めちゃくちゃハマった

副題に「ロマノフたちの黄昏」とあるように、ロマノフ王朝の終焉を描いた作品ですが、作品全体に横たわる鈍く重い、何か”いびつ”なものが終始胸をチクリと刺し続ける。

そうか、これが、上田久美子作品か。

そして描かれる多くの人々の思い。貴族たちと、皇帝一家と、民衆と。

歴史ものを描くとき陥りがちなのが、ただ歴史的な出来事を並べ立てただけで、”ドラマ”になっていないと言うこと。

例えば、小池修一郎大先生がナポレオン・ボナパルトの人生を描いた星組の「眠らない男・ナポレオン」がそれに当たると私は思っているのですが。

しかし、この「神々の土地」という作品は、それぞれの人が、それぞれの立場で、それぞれの思いを抱えて生きているということがひしと感じられたのです。

そして、細部にまできめ細やかな演出が印象的。

例えば、煙草。

主人公ドミトリー・パブロヴィチ・ロマノフ(朝夏まなと)は煙草を吸う人である。節々で喫煙のシーンがあり、愛煙家であることは一目瞭然。

しかし、皇后アレクサンドラ(凛城きら)はしきりに煙草を嫌う。皇帝たちの住む離宮ツァールスコエ・セローでは煙草を吸わないよう、ドミトリーにも求めている。

かと思えば、皇帝の母君たるマリア皇太后(寿つかさ)は煙草を吸う。

ニコライ二世の第一皇女・オリガ(星風まどか)と婚約したドミトリーはそんなマリア皇太后に「我が家は禁煙です。」と言うのだ。

しかし、私たちは知っている。ドミトリーが実は煙草を吸う人なのだということを。そして、元々皇帝一家とは家族になれない側の人間だということを

煙草が教えてくれるのはこれだけではない。

ある時、煙草を吸おうとしたドミトリーだが、あいにくライターを持ち合わせていなかった。そこへ現れたフェリックス・ユスポフ(真風涼帆)が「よう」と声をかけてライターを差し出す。ドミトリーは「おう」とだけ言って火を点けさせてもらう。

「よう」と「おう」の応酬だけでこの息の合った無駄のない動き。

皇帝に近しいドミトリーと、皇帝一家から嫌われているフェリックスは、実はかなり親しい間柄であるということを、私たちはこの時初めて知ることになるのです。

煙草がこんなにも効果的に使われる作品が今までにあったでしょうか。

上田久美子の脚本と演出の秀逸さに魅せられた一時間半となりました。

物語のはじまり

ここからは物語の流れを追いかけながら、感想をお話していきたいと思います。(超長いです。お時間あるときにどうぞ。後日簡略版としてキャスト別の感想も出すかもです。)

舞台は1900年代初頭のロシア。皇帝ニコライ二世(松風輝)皇后アレクサンドラ(凛城きら)怪僧・ラスプーチン(愛月ひかる)に心酔するあまり、国民たちに悪政を強いていた。

革命の機運高まる帝政ロシアで皇帝の従兄弟として生まれたドミトリー・パブロヴィチ・ロマノフ(朝夏まなと)がこの物語の主人公である。

ドミトリーはモスクワにある亡き伯父・セルゲイ大公の邸宅に身を置いていたが、軍人でもある彼は皇帝を護るために首都ペトログラードへ転属することになった。

彼の転属に際してセルゲイ大公邸ではパーティーが開かれるが、肝心のドミトリーは姿を見せない。

代わりに招待客たちを見事に捌いていたのが若くして未亡人となったセルゲイ大公妃イリナ(伶美うらら)。彼女は皇后アレクサンドラの妹でもあり、ドイツからこのロシアまで嫁いできたのだった。

スッと伸びた背筋に、雪のように白い肌。

登場シーン、さっそくうららちゃんの美しさに目を奪われる。凜としたその立ち振る舞いに、人々が「アレクサンドラではなく、イリナが皇后であれば。」と口々に言うのも納得である。

イリナの友人であるジナイーダ・ユスポフ(純矢ちとせ)がこの時、時代背景や登場人物について上手いこと説明してくれる。

が、この作品の難点と言えば、ここを聞き逃すと人物関係がわからず”置いてけぼり”になるということ。歴史物なのでここは仕方がないか。

一方、ドミトリーはというと雪景色の大地を駆け、狩りをしていた。農夫役・風馬翔とのやりとりが何とも雰囲気があって好きだ。

そして、まあ様の眉間のシワがたまらない。国の未来を案じ憂う姿がシブくて格好いい。

まあ様のことは新公時代から知っているだけに、「大きくなったなあ…。」と胸にこみ上げるものがあった。宝塚ファンあるあるの感情である。

さらに、煙草に火を点ける仕草もたまらない。この煙草にしろ、軍服姿にしろ、このドミトリーという役はとにかくあらゆる面で男役冥利に尽きる、といった役どころなのである。

男役最後を飾るにふさわしい。

退団公演は駄作ということが言われているが、まあ様の場合は少なくとも”当たり”だろう。

と、そこへイリナがドミトリーを呼びに現れる。

ドミトリーはペトログラードへの転属が気にくわないらしい。大公が亡くなってからというものダンスを踊らなくなったイリナが、今自分と踊ってくれたら言うことを聞く、と甘えてみせる。

2人はダンスを踊り始める。踊っているうちに、どんどん2人の表情が柔らかく、楽しげな様子になるのを見せることで、この2人の関係を悟らせるあたりがまた秀逸。

この物語は全体的に気持ちを語る場面が少ない。行間を読み取っていかなければならないタイプのお芝居である。しかし、その方が色々と想像の余地があって私は好きだ。

そして、各々が自分の気持ちを語らないぶん、別のところで、例えば表情などで表現をしなければならない。きっとジェンヌさんたちにとっても演じ甲斐のあったことだろうと思う。

さて、キスを寸前で交わされたドミトリーは言う。

「忠実なる騎士に、あなたの望みを。」

イリナは答える。

「ペトログラードへ行き、お姉さまたちを護って下さい、ドミトリー。」

これにキラキラとした笑顔で「はい。」と答えるドミトリーが印象的だった。

2人の会話を聞いていると、ドミトリーはイリナにかなりの確率で敬語を使うのが気になる。対して、イリナはほぼタメ語。

伯父の奥さん、という立場からなのか、あるいはイリナが少し年上だったりするのか。

とにかく、お互いに意識していることはこちらには丸わかりなわけだが、当人たちは絶妙な距離感を保っているところが、まあ何とももどかしくもあり魅力的な2人なのである。

イリナが言う。

「ロシアの匂いがする…。薪から昇る煙の匂い、重たい雪の匂い、冷たい大地の匂い。この国はどこまで言っても美しいってあなたが話してくれた。」

遠い異国の地にやってきたイリナが語るロシアの姿である。

宝塚にしては地味で殺風景な雪景色のセットだが、彼らにとっては愛おしき大地なのである。イリナのこの台詞が一気に私をロシアの世界に誘ってくれたような気がした。



近衛騎兵連隊任官式

場面が転じて首都・ペトログラード。

ドミトリーは近衛騎兵連隊の任官式に臨む。皇帝やその一家から歓迎を受けるドミトリーだが、まわりの貴族たちの反応は冷たい。

皇族であるドミトリーのことを、ツァーリ(皇帝)の手先ではないかと疑っているのだ。

持て余したドミトリーは煙草を吸おうとポケットに手をやるが、あいにくライターを持ち合わせていなかった。と、そこへ現れたのがフェリックス・ユスポフ公爵(真風涼帆)

前述のように「よう」「おう」とだけ挨拶を交わし、煙草に火を点ける。この一連の流れが何とも私は好きである。

さて、そこへ声をかけてきたのがニコライ二世の第一皇女・オリガ(星風まどか)第二皇女・タチアナ(遥羽らら)、そして皇太子アレクセイ(花菱りず)

ドミトリーはどうやら子供たちから慕われているようだ、ということがこの時の様子から伺える。

ちなみに、ニコライ二世にはあと2人娘がいたのだが、この作品では登場しない。この登場していない娘のひとりこそ、現在宙組で公演中のタイトルロールにもなっているアナスタシア、ということになる。

任官式が終わると宴が催される予定だったが、皇帝一家はそれには参加せずに一緒に帰ろうとドミトリーに言う。ここでまた浮き彫りになる一家の”いびつさ”

皇帝に忠実なドミトリーはただ、何も言わずに従うのだった。

ジプシー酒場・ツィンカにて

ジプシー酒場ツィンカでは招かれざる客がいた。

皇女オリガと皇太子アレクセイである。ドミトリーが皇后に内緒で彼らを遠乗りに連れ出し、その途中で寄ったのだ。

そんな2人の”浮きっぷり”と、居心地の悪そうにしている近衛連隊のコンスタンチン・スモレンスキー(澄輝さやと)ウラジーミル・ボルジン(蒼羽りく)、それからロマン・ポチョムキン(瑠風輝)の3人組との対比をしばらく見せるのがまたいい。

居住まいを正す3人組に対して、ひたすらに図太く足を組むフェリックスとの対比もまた面白い。

それにしても、フェリックスはイリナに対してもオリガに対しても冷たい言葉を投げるわ、皇帝一家には嫌われているわで、完全に嫌なヤツだと思っていたのだが、この後だんだんと愛おしい存在に変化していくことになる。

ゆりかちゃん(真風涼帆)はこの作品で2番手最後となったわけだが、ハマリ役だったと思う。そして、軍服姿の多いまあ様に対してゆりかちゃんはスーツが多いのだが、これまたスーツがニクいくらいめちゃくちゃ似合うんだ。カッコイイ。

さて、元々浮いていたアレクセイが更に浮いた発言をする。酒場のミーチャ(優希しおん)が弾くギターを気に入ったので、オリガが身につけているダイヤを褒美に取らせたいと言うのだ。

そんな、アレクセイにドミトリーは言う。今はお忍びできているのだから、君はただのアレクセイだ。だから、お友達になってギターを教えてもらえばいいんだ、と。

このシーンでドミトリーが皇族ではあるものの、ごくごく”普通”の感覚を持った人物であることがわかる。

そして、アレクセイがミーチャとギターを弾きに行ってしまうと、再び場は沈黙する。皇女さまと一緒だなんて緊張して…と誤魔化す3人組をぶった切るフェリックスの冷たい表情が印象的。

「そう…迂闊なことは言えない、とね。」

普段は皆がこのツィンカで皇帝の悪口を言っていると聞いたオリガは「帰る。」と言い出すが、ここでまたドミトリーが”普通の感覚”というのを教えてやるのだった。

「この世は意見の違う人間だらけだ。争ったっていい。だが背を向けるな。」

この熱きメッセージにすっかり私はドミトリー虜になってしまった。つくづく、格好いい。

すると、オリガが堰を切ったように反駁する。とんだテロリストだ、とドミトリーは笑うが、その一生懸命な口ぶりが可愛らしくて、私もついフッと笑ってしまった。

今まで”いびつ”に見えていた彼女だが、話してみると結構いい子じゃないか。

それにしても、オリガを演じたまどかちゃんはこの時研4とか3とかだったか。ものすごい舞台度胸だと感心してしまった。

しかし、フェリックスにはフェリックスで言い分がある。芸術や文化を高みに押し上げてきたのは我々貴族なのだと。この発言がこの後のシーンに活きてくる。

コンスタンチンと、酒場の歌手・ラッダとの身分違いの恋である。

ラッダの弟で酒場のダンサーであるソバール(桜木みなと)は、コンスタンチンがラッダにいつも花をプレゼントしていることについて一物あったようで。

花なんて余裕のある人が楽しむもので、俺たちに必要なのは食べ物なんだと。

庶民と貴族の違いをリアルに見せつけられたような気がした。

「それが侮辱だって言ってるんだ!」と吐き捨てるソバールの瞳が潤んでいたのが印象的。

それにしても、ずんちゃんはこういったスレた感じの役が似合いますね。ダンスシーンでもスポットライトが当たって、真ん中をはっていて。ザ・若手向けの役という感じでオイシイ役どころでした。

ソバールにそう言われたコンスタンチンは、すぐにラッダに謝るのですがこういった態度や表情ひとつひとつに心優しい人柄が表れていて…あっきー(澄輝さやと)すごく素敵でした。

ラッダがおもむろに♪土よを歌い出すと、人々が踊り狂う。

この時のダンスも歌も、熱量がすごくて圧倒されました。ロシアという国が傾きかけているということを象徴しているかのようで、とても好きなシーンです。

と、踊り狂う人々の中でアレクセイが怪我をしてしまう。彼は血友病で、出血をすると血が止まらなくなり命の危険すらあるのだ。

「神父様の元へ連れて帰って!!」と金切り声で叫ぶオリガに、再び”いびつさ”を感じて胸がチクリと痛んだ。



ラスプーチンの登場

この作品全体に横たわる異物の正体、それがラスプーチン(愛月ひかる)である。

愛ちゃん…。ハマりすぎでは…。

特に愛ちゃんみたいないわゆる路線スターさんの役では絶対になかったが、これをやらせようと思った上田先生と、愛ちゃんの熱演に脱帽。

説明しがたいが、なんかやばい奴なのである。今まで人々の話の中でラスプーチンのことは聞いていたが、想像以上のやばさ。得体の知れぬ恐怖感すら感じる。

ドミトリーもきっと同じように感じたのだろう。皇后に「彼はまともな人間ではない。」と進言するのだが、皇后は頑として聞き入れない。

りんきらは今回女役を演じていましたが、発声も自然すぎて驚きました。そして、ラスプーチンに心酔し、まわりの言うことを頑なに聞き入れない。常に表情を硬くしてそこに居るのが印象的でした。この作品の肝と言うべき存在になっていたと思います。

皇后に出て行くように言われたフェリックスが、去り際にドミトリーにある計画を打ち明ける。

「おい、あいつを殺そう。」

あいつ、とはラスプーチンのことである。それにしてもフェリックスはサラッとものすごいことを仰る。また話をしよう…とドミトリーの耳元で囁くのが何とも不穏だった。

ガッチナ宮殿にて

フェリックスの言葉にしたがって、マリア皇太后の住むガッチナ宮殿にやってきたドミトリー。彼女が開く舞踏会の裏で例の話をしよう、ということらしい。

普段はこの宮殿に近寄らないオリガもドミトリーに連れられてやってくる。

オリガはいつしかドミトリーに恋心を抱くようになっていた。

♪オリガの歌でそんな恋のときめきを歌うのだが、このピュアさが痛々しい。これから行われようとしている不穏な動きに、彼女が気付かなければいいのに、と願ってしまう自分がいた。

それにしても、まどちは歌が上手い。銀橋で1人で歌うという大役をこの学年で担ったにも関わらず、この安定感である。抜擢もしたくなるわけだ。

さて、ドミトリーがマリア皇太后に呼び出された部屋に入ると、そこには錚々たる顔ぶれが集まっていた。こんなにも裏で皆が繋がっていたのか、と驚くドミトリー。

ラスプーチンを暗殺し、クーデターを起こしてドミトリーを皇帝に、ということらしい。しかし、ドミトリーはきっぱりとこれを断った。

まあ、こうなるだろう、と大体予測が付いたのはドミトリーの誠実な人柄を丁寧に描いてきた先生の脚本と、それを丁寧に表現してきたまあ様の演技の賜物である。

しかし、事件は起こる。案の定、オリガがこの密談を聞いてしまうのだ。

どうしてここに、と問うドミトリーにオリガは必死に”言い訳”をする。

そこへマリア皇太后も部屋から出てきて、オリガに話を聞かれてしまったことが発覚してしまうのだが、

「僕を信じろ。」

と後ろから小声でドミトリーが囁くのがまたいい。ツィンカの場面でも思ったが、ドミトリーはきっといい父親になっただろうと心底思う。

オリガは勇敢だった。マリア皇太后に怯むことなく「おばあさまの舞踏会に来てみたかったの」などと言い、その場を上手く切り抜けるのだった。

このシーンのまどちの演技、とても好きです。少々舌っ足らずな感じの残る台詞回しも、かえって今回のオリガという役では一生懸命な感じが出ていてよかったと思う。何より、オリガがドミトリーを通じて世界を広げていく姿が何とも”リアル”だったのが印象的だった。

マリア皇太后の歓迎を受けたオリガは、ドミトリーに導かれるまま初めてワルツに挑戦する。この時のオリガがとても楽しげなだけに、この後の展開がオリガにとっては苦しいものばかりで泣けて泣けて仕方がなかった。



イリナとの再会

と、そこへジナイーダのちょっとした悪戯によって戦地から呼び戻されたイリナが現れる。

それまでオリガと楽しそうに踊っていたドミトリーだが、イリナを目にした瞬間、彼の目にはもはやオリガは写っていない。

久々の再会である。

ドミトリーはイリナにワルツの相手を申し込む。イリナは少し迷ってからそれに答える。そこからはすっかり二人の世界だ。お互いにお互いのことを特別に思い、再会を内心嬉しく思っていることは語らずとも明白である。

二人が踊る後ろで、オリガがフェリックスに連行されるが如く手を引かれていくのが結構ツボだった。なんか、まどちがちっちゃくて、ゆりかちゃんがおっきくて、萌えというやつでした。

萌えと言えばもう一つ。

イリナを呼び戻したジナイーダが「これはちょっとした思い付きよ」と楽しんでいるご様子なのに対して、フェリックスはどこか少し不機嫌。

「嫉妬した?」と問われると「どっちに?」と吐き捨ててその場を去るのだ。

どっちとはどっちだ。イリナは昔思いを寄せていたという描写があったからわかる。

まさか、おまっ、ドミトリーに?え、そういうことなのか!?

動揺した私は、一度ここで録画の再生を止めて思わず調べてしまった。どうやら実際のドミトリーさんとフェリックスさんも愛人関係にあったと言われているらしい。

この作品でははっきりとは描かれていないものの、思い返せばそんな素振りもあったし、この後の場面でそんなことを思わせる台詞があったりもする。

色々と想像の余地を残してくれるのが、この作品の楽しいところである

この後、ドミトリーはイリナにオリガとの縁談があることを明かすのだが、二人がロシアのためと冷静であるのに対して、フェリックスが断固として反対するのも面白い。

嫌なヤツだと思っていたフェリックスにだんだんと愛着が沸いてくるのだった。

オリガとの婚約披露

ドミトリーとオリガの婚約披露パーティーに、マリア皇太后をはじめ今まで遠ざけられてきた人々も招待されることになる。オリガが皇后を説得したのだと聞いて、なんと頼もしいことかとオリガの成長が嬉しくも感じた。

ここで、煙草を吸うマリア皇太后に対して、ドミトリーに「我が家は禁煙です」と言わせるのが良いというのは前述の通りである。ドミトリーはどんなに取り繕っても彼らとは家族になれない人間なのである。

そこへ、ラスプーチンが乱入しドミトリーの心にいるのは別の女性であることを言い当てる。和解ムードでやわらいだかに見えた空気がまた一瞬にして張りつめる。

そして、あんなに勇敢だったはずのオリガが目に涙を溜めて、逃げるように立ち去ろうとするのが悲しい。恋の前では皆臆病になるということか。

張りつめた空気を破り、口火を切ったのはまさかの皇帝だった。

そしてドミトリーに本当のところはどうなんだと優しい口調で、しかし真正面から問う。慈愛に満ちたまっぷー(松風輝)の表情と声に、この人も伊達に皇帝やってたわけじゃないんだな、と少し見直してしまった。

と、そこへイリナが襲われたとの知らせが入る。呆然としたまま、イリナの元へ向かおうとするドミトリーの姿が答えである。

何とか助かってツァールスコエ・セローに現れたイリナ。

安堵するでもなく、イリナを愛おしむでもない、まあ様の何とも言えぬ表情が印象的だった

ドミトリーはこの時初めて「自分はイリナを愛しているのだ」ということを自分の中で認めたのだと思う。気付かないふりをして蓋をしていた気持ちを受け入れた。たぶん、そんな表情だったように思う。

追放と別れ

自分が誰を愛しているのか。自分が何をすべきなのか。

それを悟ったドミトリーはラスプーチンを暗殺する。

ドミトリーが何度撃っても、何度サーベルで刺しても、ゾンビの如く動き回りなかなか息絶えぬラスプーチンが最期まで不気味である。愛ちゃんの熱演に拍手。

しかし、クーデターは失敗に終わる。オリガが皇帝と皇后に密告したのだ。

それでも、民衆の感情を考えてドミトリーを助けて欲しいと、オリガは皇后に懇願するも皇后の頑なな心が今更解けることはなかった。

オリガは母の思いを受け止めて、運命を受け入れる覚悟をするのだった。まどちがスッと流した涙が印象的だった。

ドミトリーがオリガに広い世界を見せたことは、かえって残酷な結果になってしまったかもしれない。その後の史実を知っているだけに、オリガが母親の小さな背中を抱きながら民衆の中へと消えていくのが切なかった。

革命はもう止められないところまで来ていた。

貴族たちが次々と逃げ出すなか、イリナは愛するロシアに留まることを決意する。

そこへ、死地であるペルシャの戦線に送られたはずのドミトリーが現れる。別れを言いに列車を飛び降りたのだ、というドミトリーはそっとイリナにキスをする。イリナも今度は拒まなかった。

翌朝、散歩に出かけた二人が思い出話に花を咲かせ、楽しそうに雪を投げ合う。冒頭の雪景色と同じなはずなのに、殺風景に見えたそれが物語を終えようとしている今、愛おしいものに感じるから不思議だ。

亡命の準備をしてやって来たフェリックスの思いも虚しく、ドミトリーは再びペルシャへ向かう汽車に乗るという。

もはや説得などできないことを悟ったフェリックスが「車で待つ!」と吐き捨てるのがカワイイ。こんなにもフェリックスが愛おしい存在になるとは、誰が想像できただろう。



ロシア帝国の終焉

まあ様のナレーションでイリナが死んだことと、ドミトリーが生き延びたことを知らされる。

舞台が再び明るくなると、そこはニューヨーク。レンブラントの贋作を売って暮らしているフェリックスと、そしてジナイーダ、マリア皇太后の姿がそこにあった。

この人たちは、相も変わらずしたたかで、そしてしぶとい人たちだ。

しかし、実は本物のレンブラントのコレクションはイリナを助けるためにボリシェビキに渡してしまったのだと明かされる。いいヤツだ、フェリックス。

「ドミトリーが生き延びるなら、彼女にまた会わせてやりたかった。」
「友情ね。永遠の片思いと言うべきかしら、ドミトリーへの。」

行方のわからぬ友を思うフェリックスに泣かされた。

そして、まあ様が再び現れ♪神々の土地を歌う。

普通ならここで幕、となりそうなところを今まで出てきたロシアの人々の楽しそうな様子を見せたのがまたよかった。おそらく、訪れることのなかったロシアの未来を描いているのだろう

桜木みなとが歌うカゲソロも素晴らしく、このシーンをより印象深いものに押し上げた。

そして、最後にドミトリーとイリナが踊るなか幕となった。

おわりに

様々な人々が、それぞれの立場でロシアを愛し、家族を愛し、人を愛する。どこを切り取ってもそこにはドラマがありました。

ラスプーチンの暗殺事件をここまで膨らませて描ききった上田先生の手腕と、宙組の皆様の芝居力に感服してしまいました。

宝塚のオリジナル作品は、その作品を楽しむと言うよりはスターさんたちの活躍と成長を楽しむ、といったものが往々にしてあります。そういうところが最大の魅力でもあると私も思っています。

が、たまにはこうした作品があってもいいと思う。3年も経ってから初めて拝見しましたが、もっと早くに観ておけばよかった。そうしたら、ゆりかちゃんの見方も、まどちの見方も違っただろうに、と今更ながら後悔しました。

さて、実はこの感想は何日かに分けてちょこちょこと暇を見つけて書いていたのですが、図らずもその間にまかまど解体の報がありました。

感想を書くために一部見返したりしたところもあったのですが…何とも寂しい気持ちに襲われてしまいました。

しかし、まあ様のお姿を見ていると、終わりがあるからこそ次の世代が輝く場を得ることが出来るのだということも改めて感じることができました。

私のような宝塚の一ファンに出来ることは、まどちのこれからと、次の宙組を担う真風涼帆&潤花コンビをただただ応援していくことのみ。そう決意を新たにしました。

最後までお読み頂きありがとうございました。

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宝塚が大好きな大学生。 初観劇は2006年雪組全国ツアーのベルサイユのばら。現在の贔屓は星組トップスター礼真琴さま。 プロフィール詳細はこちら

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