こんにちは、zukacotoです。
今回は2006年に雪組で上演された「堕天使の涙」についてご紹介します。この作品はトップコンビ朝海ひかる・舞風りらの退団公演です。
堕天使ルシファーが見つめる人間の世界を通して、本当に大切なものは何なのかを考えさせてくれる作品となっています。
もう10年以上前の作品になりますが、今観ても色あせない作品です。中身のある深い話がお好きな方には絶対に刺さるはず。それではさっそくあらすじからお話していきますね。
あらすじ
舞台は20世紀初頭のパリ。とある仮面舞踏会のショーで主役を踊った無名のダンサー(朝海ひかる)に人々の目は釘付けになっていた。
彼は自分をミハイルと名乗り、ロシアから来たのだと人々に告げる。そして、そこに居合わせた新進気鋭の振付家・ジャン=ポール(水夏希)に自分の館を訪ねるように言い残す。
約束通り館を訪ねたジャン=ポールに、ミハイルは自分のために作品を作って欲しいと告げる。テーマは”地獄の舞踏会”。そして、実は自分は堕天使ルシファーで、人間界に旅をしに来たのだと明かす。
半信半疑のジャン=ポールだったが、彼が踊る姿に魅せられ作品を作ることを決める。
さっそく地獄の舞踏会の制作が動き出すが、それに関わるダンサーや作曲家など、様々な人々がルシファーに誘われるがままに次々と自分の欲望を露わにしていくことになる。
醜く争い、騙し傷つけ合う愚かな人間たちをルシファーは嘲り笑う。そして、そんな愚かな人間たちを創造し愛した神を憎み、地獄に堕とされた自分の運命を呪うのだった。
かつて光の天使”と称され、天上界で最も美しく最も神に愛された存在だったルシファー。なぜ神は自分ではなく人間を愛するのか。愛と憎しみの狭間で彷徨うルシファーが見つける答えとは…。
植田景子の描く「騙し傷つけ合う人間の愚かさ」
この作品は植田景子先生が脚本を手がけたオリジナル作品です。
植田景子先生と言えば、社会性を織り込んだりメッセージ性を含んだりした作品が多いことが知られていますが、この作品もザ・植田景子作品という感じ。
地獄の舞踏会という作品を巡って人々が醜く争う姿を描きます。例えば、ヒロインの座を巡って。あるいは作品に使う曲を巡って。
ルシファーが出会う人間界の人々を通じて、愛とは何か、なぜ人は憎しみ合うのか、そんなことを考えさせられる物語になっています。
そして、植田景子ならではの世界観の作り込まれ方も魅力的。一面にブルーローズを咲かせたり、小道具にアダムとイブのりんごを多用したり。
決して明るい話ではありませんが、心になにか明かりを灯してくれるような作品に仕上がっています。
堕天使ルシファーを演じる朝海ひかるの美しさ
堕天使ルシファーという人間ではない役を演じることになったコムちゃん(朝海ひかる)ですが、それにふさわしく人間離れした美しさがとにかく引き立った作品でした。
金髪がよくお似合いになり、かつて光の天使と言われた、というのも納得。そして常にまわりに紗がかかったかのような神々しさがありました。
その美しさに反して影を落としたような瞳も印象的。神を呪い憎み、人間たちを嘲笑ったルシファーが人間たちとの関わりを経て答えを探し求める姿をとても魅力的に演じていらっしゃいます。
ふんだんに盛り込まれたダンスシーン
コムちゃんと相手役のまーちゃん(舞風りら)はダンサーコンビとして名を馳せたトップコンビでした。
そういうこともあって、ダンスのシーンがふんだんに盛り込まれているのも見どころの1つ。そもそも人間界ではダンサー、という役どころですしね。
まーちゃんはルシファーが出会う人間界の人々のうちの1人、という役どころ。
瀕死の状態で教会に運び込まれてきた盲目の娼婦ですが、実はかつてはエトワールにも抜擢されたこともあるダンサーでした。彼女が踊る姿はまるで天上界を舞う天使だと称されたほど。
そんなまーちゃん演じるリリスとルシファーがドライアイスのなかで、飾り気のないシンプルな衣装で踊るシーンは特に印象に残っています。
音月桂・壮一帆・凰稀かなめら次世代スターが出演
この公演には今から見るとすごく豪華な顔ぶれがたくさん出演していらっしゃいます。
次期雪組トップスターに内定していたジャン=ポールを演じた水夏希をはじめ、元雪組トップスターの音月桂、壮一帆、そして元宙組トップスターの凰稀かなめらが出演していらっしゃいます。
”地獄の舞踏会”のヒロインを射止めたイヴェットを演じた大月さゆは明日海りおや望海風斗を輩出したあの89期生。トップにはなりませんでしたが、数々の作品で主要な役を演じた素敵な娘役さんでした。
そしてイヴェットの恋人であり、稽古場でピアノを弾いているセバスチャンを演じたのが音月桂。イヴェットがヒロインに抜擢されたことで、パトロンの力を得て一気に華やかな世界に駆け上がっていくのを見つめる目が切ない。
彼は彼で元々コンサートピアニストで世界中を飛び回っていました。しかし、とある事件に巻き込まれて指を負傷してからは雇われピアノ弾きの身に。
名誉と栄生を失い、恋人を失ってもなお神を呪わず、人を憎まない彼の姿はルシファーに多大な影響を与えることになります。
地獄の舞踏会の作曲を任されたエドモンを演じたのは壮一帆。彼はスランプに陥っており、なかなかジャン=ポールのお眼鏡にかなう曲を作れませんでした。
そんな時、偶然弟子のマルセル(彩那音)が作曲した曲を聴いたジャン=ポールは、彼に作曲を任せエドモンの名前で発表すればいいと吹き込みます。
はじめは戸惑うエドモンでしたが、マルセルの才能への嫉妬と自分の名誉のためにジャン=ポールの提案を受け入れてしまうのです。
そして、ルシファーの従者であるサリエルを演じたのは凰稀かなめ。彼もまたルシファーと同じく人間ではないのですが、コムちゃんに負けるとも劣らないこの世の者ではないような美しさが印象的でした。
常にルシファーにぴたりと付いて回るという下級生としてはこれ以上ないオイシイ役でもありました。ちなみに新人公演でルシファーを演じたのがこの凰稀。こちらも一度拝見したことがあるのですが、美貌が引き立って素晴らしかったのを覚えています。
ついでに印象に残っているキャストさんがもう一方。ジャン=ポールの母親役を演じた専科の五峰亜季さんです。とある理由から子供たちのことを愛せず、むしろ憎しみさえ覚えているという役どころ。
とても難しいお役だったと思いますが、愛と憎しみに揺れる複雑な心を繊細に演じていらっしゃってとても印象に残っています。
退団公演ならではの演出
明日海りおの退団公演を手がけたことで記憶に新しい植田先生ですが、こちらの作品でも退団公演ならではの台詞や演出を組み込んでいらっしゃいます。
ラストシーン。真っ白なクリスマスツリーに囲まれ、雪が降るなかノエルが流れます。そして人間界を去るルシファーにジャン=ポールがかけた言葉がこちら。
忘れないよ、お前のダンス。
それに応えるようにルシファーは恭しくお辞儀をして幕となります。
君ならこの庭に美しい花を咲かせられる、もしかりですが現トップと次期トップとのこうしたやり取りに宝塚らしい愛がたくさん込められていてすごく素敵なシーンでした。
そしてこのシーンがより素晴らしいのは、退団日に合わせた仕様になっていたこと。東京の千秋楽が2006年12月24日で、ちょうどクリスマスイブだったのです。
神や教会、アダムとイブのりんごなどキリスト教や聖書に基づく物語だったからこそ、このシーンもよく引き立ち、また真っ白なクリスマスツリーと真っ白な雪と、真っ白なドライアイスに包まれるコムちゃんの美しさもまた引き立っていて。
10年以上経った今でも忘れられないシーンになっています。
おわりに
今回は2006年に上演された雪組「堕天使の涙」についてお話してきましたが、いかがでしたでしょうか?
宝塚のオリジナル作品にはちょっと椅子から転げ落ちそうになるくらいのズッコケ脚本も多数存在しますが、こちらの作品はそんな中でもかなりよく出来た作品だったと思います。
そして、ルシファーを演じた朝海ひかるさんの美しさと、それを取り巻く人々を演じた皆様の熱量に圧倒された作品でした。
現在、雪組組長である奏乃はるとさんのお姿も見れますし、彩凪翔さんが最下級生で出演していらっしゃったりと今観るとスターさんたちの宝庫でそういった意味でも楽しい作品です。
機会があったらぜひご覧になってみて下さい!それではまた。
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